今日は北海道後志の寿都町に、深層水を使っていただいている漁業者を訪れました。寿都町は岩内の南西、40㎞ほどの距離にある日本海添いの町、寿都湾を囲む漁業の町で、朱太川をはさんで寿都側と歌棄(うたすつ)側に大きく分かれています。
今朝、ボタン雪のような重い雪が降りしきる中、国道229号を岩内から寿都に向かうと、蘭越町の境を過ぎた辺りからずっと山と海岸の間のわずかな陸地の道路を進んでいきます。
資料で見たところ、1950年ごろ最盛期を迎えた寿都町の人口は現在4分の1くらい、2800人を切ったようです。この町も後志地域の他の町同様にかつてはニシン漁で栄えたそうで、道路沿いにニシン御殿がありました。
さて今日は、カネサ漁業の佐藤匡将(まさのぶ)社長にお会いしました。佐藤さんは寿都湾の北部、歌棄地区の美谷漁港に漁師の家に生まれ、高校を卒業してすぐに漁師になられたそうです。会社組織にしたのは1992年、30年も前のことで、現在はご自身とご両親、奥さんの4人と、社員が5人の9人体制で、一番最初の社員は勤めて20年を超えるそうです。カキ、ウニ、アワビ、イカ、ホッケ、鮭、ニシン、その他マサバやソイなど、年間を通じて売り物にしている魚類は豊富で、定置網漁、底建網漁、浅海漁、そして貝類の養殖などを営んでこられたそうです。
どういったスケジュールで漁に出られてるんですか?
「天候に左右されるけれど、週に3回ぐらい網おこししてるかなあ。網おこしは何かって?漁に出て魚を獲るってことだよ。社員と6人で、今の時期だったら6時過ぎ、夏は朝5時くらいに船を出して、夕方5時に仕事を終える感じかな。そこに船が見えるだろ、あれが第十一勇宝丸だよ。今の時期は底網漁で、4月になったら定置網で秋までサクラマスとか鮭を獲って、10月には底網に戻ってホッケとか鯖とかを獲る、そんな感じだね。」
寿都町で漁師として生きるって、いかがですか?
「美谷漁港では15~6人の漁師がいるけれど、自分には嫁に行った娘が札幌にいるだけだから、カネサ漁業では若い人を雇って漁師に育ててるんだよ。自分たちには漁業しかないし、ここで生き残っていくためには消費者に選ばれる漁師にならなくてはならないという思いがあってね、2014年ころかな、定置で漁獲した魚を即、船の上で活〆をしてるんだけど、大きくて良い魚だけのことだけどね、活〆って言っても寿都の市場で値段が上がるものじゃないから、やはり都会じゃなきゃね。船上活〆のラベルを付けて札幌の市場に出したり、ネットでの鮮魚販売も始めてるんだ。3年前にポケットマルシェへの出品を始めたとき、コロナの蔓延とタイミングが合って、日本全国、みんなステイホームして家で料理をしたでしょ、そのときにすごく売り上げたんだけどね。鮮魚やカキやホタテが毎日300ケース出たときもあったよ。俺は寿都の漁業協同組合の理事をやってるから、ここの市場に出すのが基本だけれどね、鮮魚を船上活〆だって言ってもここでは値段が変わらないし、市場で10円のホッケだって美味い干物にしたら300円で売れるからね。」
じゃあ、ネット販売は鮮魚?それともカキやホタテが中心ですか?
「いや、ネットでの中心は深層水仕込みの魚の開きな、冬の宗八かれい、ホッケ、鯖がやっぱり中心かな。鮮魚はなかなかネットでは売れないから、札幌の市場に出してるね。」
ところで、深層水はどのように使っていただいてるんですか?
「基本的に干物には全部深層水を使ってるよ。捌いてから、深層水に少し塩を足して、そこに1時間漬けてから干す、いわゆる深層水仕込みっていう商品にしてね。この仕込み方でホッケや宗八カレイ、サバなんかをね、確かに臭みも取れて美味いし、深層水仕込みということで他の商品とは違う感じが出るでしょ。深層水の量?年に4,5回汲みに行って、年間2トンくらいかな。あとはそんなに量は使わないけど、ウニの塩水パックかな。」
カキやホタテには深層水は使われてないんですか?
「国道に上がったところにうちの売店があるだろ、売店の中の水槽にカキやホタテを入れてるけど、目の前の海水を循環しているから深層水は使ってないよ。カキは4月後半から7月中旬まで、ホタテは一年中あるけれど、どちらも放卵する時期を過ぎたらシーズンは終わりだな。」
カキのシーズンは一般的に11月から4月までって言いますけど、寿都のカキはなんでずれてるんですか?
「日本海は栄養分が少ない海なんだ。だから山の雪が解けて海に流れ込んでカキに栄養が行って大きくなるんだよ。東北の大震災の前の話になるけれど、この辺のカキは種を宮城県から仕入れてて、宮城のカキ漁師さん、カキの博士って呼ばれてる人も来てくれて、震災まで5年くらい続けたかなぁ、山に広葉樹を植えたんだ。役場がセットして、毎年みんなで出かけたよ。だから、雪が溶けて、海に流れて、それがカキを大きくして、卵を産む夏までの直前が旬っていうことだよね。一般的にカキは3年目が食べ頃で、4年目のカキは特大とかで売ってるけどね、大きくなりすぎると海に落ちちゃうんだよ。今年も時化がきつかったかあ、半分くらいは海におちてるかもな。」
最後に、ネットで見たんですけれど、タコの足がありましたよね?
「ああ、タコの足は塩で茹でて、今干してるよ。見てくか。塩加減がちょうどよくて、醤油が無くても刺身で美味い味に仕上げてるんだ。」
美味そうなタコ足を眺めながら、出発の時間が来ました。
将来もずっと漁業や養殖業を営んでいくために様々な販売手法に努めて行かれるそうです。
今日はありがとうございました。